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掛けうどん [エッセイ]

毎朝の通勤途中、近鉄鶴橋駅の立ち食いうどん屋でうどんを食べるのが日課になっている。立ち食いそば屋の方が聞こえがいいが、やっぱり関西はうどん屋である。勿論そばも有るが、立ち食いというカテゴリーでの比較では「関西のそば」は「関東のそば」に負けているからである。関西庶民の味、それはやっぱりうどん。暑い真夏でも、ふーふー言いながら汗をかきかき食べる「立ち食いうどん」は格別である。


              (饂飩のルーツ、掛けうどん)

私は一杯200円の掛けうどんが好きである。何故かというと、早くて、安くて、旨い…からである。腰がやわらかく、讃岐うどんの様な筋の通った主張を持たない、控えめな麺。それから、いかにも「一番安い…」と主張している薄っぺらな蒲鉾のスライス2枚。表面がピンク色っていうのが下町つぽくていい。そして、バサッとのせられたネギ。関西では、ネギは万能ネギである。食べた後に、ひつこく前歯にこびりついて「今まさに、うどんを食べてきたばかり」という食べた本人には気が付かない「いやーな主張」を時々行うという欠点は有るが、ネギらしさって言うのか、ネギ臭さって言うのか、かつおと昆布の出し汁とのコンビネーションが抜群である。ただし、前歯についた青ネギの点検は、爪楊枝なんかを駆使して、念入りにやっておく必要がある。むかし、朝一番に事務所に入ってきた部下がにっこりと笑って「昨日の巨人阪神戦、面白かったですね!」と笑った時に前歯にしっかりとへばりついたミドリのネギがあまりにも印象的すぎたので、いつも注意をしている。

小銭入れから200円を自動券売機にほりこみ、掛けうどんのボタンを押すと「食券」が出てくる。280円の天ぷらうどんや350円の肉うどんにも負けず、掛けうどんではあるが同じ食券である。いつもの事だが、今日は天ぷらうどん…? いや、250円のきざみうどん…?なんて、迷いが有る。たまにはカウンターでおばさんに食券を渡して「天ぷらうどん一丁~」なんて大きな声で呼んでもらいたい時も有る。せまいカウンターの左右で天ぷらうどんや肉うどんを食べているお客さんがいるときなんて、「おばさん、静かーに掛けうどんちょうだいね…」なんて思う事も有る。


              (JR鶴橋駅前のスタンド)

掛けうどんがカウンターに出された後に、掛けうどんを天ぷらうどんもどきに変身させる事が出来る。つまり「揚げ玉の術」である。さりげなく、天ぷらうどんを食べている人の邪魔にならぬ様に天ぷらうどんの向こう側に置いてある(こういう時に限って離れた所に置いてある)ステンレス製の揚げ玉入れに、「すんませーん」と言いながらそっと手を伸ばして引き寄せる。やみ雲にステンレスの蓋を開け、揚げ玉を大さじで一杯(たくさん・山盛り)すくい取り、隣の天ぷらうどんを食べている人を若干気にかけながら、掛けうどんの上にかけるのである。本当は二杯掛けたいのだが、遠慮して一杯にしている。天ぷらうどんの様にオレンジ色の海老のしっぽが見えていないのが残念であるが「揚げ玉の術」の完成である。ちょっぴり、リッチな気分である。関西では串カツ屋で「2度浸け禁止」というのが有るが、関西の立ち食いうどん屋で「揚げ玉は一杯だけ」という注意書きが有る場合も有る事を覚えておいて欲しい。

立ち食いうどん屋の天ぷらうどんというのも、ちょっと「いかさま風」な代物である。私も時々、天ぷらうどんを頼む事も有る。立ち食いだから追求はしないが、7~8センチ径の小判形をした天かすの固まりの端に長さ3~4センチくらいの子海老がひっついている。天ぷらの衣と海老との境界をごまかしているのならまだましだが、スケスケのシースルーでいかにも「ごまかし」…って感じが見え見えである。はじめから「私、いかさまではありません、立ち食いの天ぷらえびは正にこういう物です…」って、しっぽを赤らめて自供しているから仕方無しである。情けない「いかさま風天ぷら」であるが、法律的にはなんら違反をやっていないと思われるし、可愛いげも有り、文句は言えない。

いつも「けちな天ぷら野郎が…」と心の中でぼやきながらも、やっぱり最後まで食べずにキープしているのが海老の部分(しっぽという表現の方が正しい)なのである。海老のしっぽを食べ終わり、立ち食いうどんフルコースが終焉を迎えるのであるが、お客さんの中には時々この「一番高い食材」を残った出し汁の中に残す人がいるのに腹がたつ。カルシュームが豊富で香ばしい香りの海老のしっぽは、余さずに是非全部食べていただきたい。なぜなら、海老が成仏出来ないからである。余計なおせっかいかも知れないが、海老のしっぽを残すお客さんは天ぷらうどんを注文する資格はないのでは?なんて思う事がある。大阪の一流ホテルの天ぷら屋で海外から来た得意先を接待した時、その全国的に名の通った老舗の板長が「海老の天ぷらで一番美味しいところはしっぽなんですよ」と言った言葉を今も忘れない。しかし、生けの車海老とさくら海老、海老はエビでも月とスッポン、海老が全く違うのである。

私が通っているこの立ち食いうどん屋にはメニューが無いが、天かすうどんという優れものもある。このうどんは厄介なものだと思う。替え玉の術を使って変身した掛けうどんでもなけりゃ、正当な天ぷらうどんでもないからである。だから、立ち食いうどん屋ではあまりお目にかからず、テーブルと椅子の有るいわゆる「うどん屋」でお目にかかるののであるが、これがなんと本当に「天かすうど~ん」って感じで気品が有るのである。関西では天かすうどんあるいはハイカラうどん(高級な殻→はいから)とも呼ばれ、店の看板商品になっているところも有るくらいだ。

立ち食いうどん屋のメニューには、こんな品書きがそろっている。階級の低い方から紹介しよう。掛けうどん、掛けそば、きつねうどん(きつね)、きつねそば(たぬき)、きざみうどん、きざみそば、昆布うどん、昆布そば、たまごうどん(月見うどん)、たまごそば(月見そば)、天ぷらうどん、天ぷらそば、かき揚げうどん、かき揚げそば、肉うどん、肉そば等々。そして圧巻は、びっくりうどん、びっくりそばとか呼ばれる代物である。スタミナうどんとかスタミナそばと呼ばれているものも有る。うどんやそばの玉が二つ入り、お揚げさん(しいて関西ではさん付け)・昆布・天ぷら・肉そぼろ・玉子などのいくつかがトッピングされる。まだ注文した事が無いから、どんな味がするのか検討がつかないが、まさにうどん(そば)のごちゃ混ぜチャンピオンって言うところか?ちょっと肥え気味で脂ぎった若者(経験からはあまり背は高くない)か体育会系の高校生や大学生が食しているのを時々見かけるが、掛けうどんをこよなく愛する私には「食ってみよう…」という気は全くおこらない。また、値段も高く、600円ぐらいはするのでは?たくさん食べたいなら、別々に注文する方がましな様に思える。盛そばなら判るが、しかし、立ち食いうどん屋で異なる種類のうどんを一人で2つも3つも注文する事は有り得ないのではないだろうか?まあー、食べたい人が食べればいいので、この話はこの辺で置いておこう。深く追求していくと、グルメバトルに突入してしまいそうだから。でも、一度は食べて見なけりゃ、バトルも成立しないかも?

話はもとに戻るが、立ち食いにはちゃんとルールがある。カウンターの上にかばん等を置いてはいけない。混んでいる時は、中のおばちゃんが案内してくれるスペースへつく事。ちゃんと、おばちゃんが「すいませーん、ちょっと入れてあげてくださいー」なんて、気を使ってくれます。勝手に狭いスペースに割り込むと、身体を斜めにしてうどんをいただかねばならなくなるし、案外、鉢が熱いので、持ったまま食べるのはやや困難となる。出来るだけ、カウンターを汚さない様に注意する。よごれていたら、布巾を取って自らカウンターを拭く。意外と感謝される。それから、隣が何を食べているのか…なんておかしな詮索はやめて、食べ終わったら「ごちそーさん」と言ってカウンターから離れるべし。自動券売機で食券を買っている時に「いらっしゃーい」、食券渡す時にも「いらしゃーい」、食べ終わったら「有り難うございました」と200円の掛けうどんで三回も挨拶してくれる。それも、おばちゃんが三人いたら「3×3」の9回となる。関東ではこんな挨拶無いのでは?うれしーじゃありませんか?(昔の漫才風になってしまった)ファーストフードレストランなんかの「マニュアル通りの挨拶」ではなく、非常に心のこもった挨拶であり「また明日も来よう、おばちゃん達の為にも・…」って気になる。

明日も「掛けうどん一丁~」で一日が始まるのかな?


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siomame55

思わずうどんが食べたくなりました。
立ち食いって行ったことないんですよね。
なかなか入りにくいです・・・。
今度チャレンジしてみようかな。
by siomame55 (2005-11-22 09:17) 

スペイン-バレンシアの日本国人

私は商用で日本に行って昼食に便利なのが立ち食いうどん。
直ぐに食べられて、安くて、 旨い。お昼頃に駅に着いてこれから商談という前にプラットホームの立ち食いうどん屋で昼食と言った具合い。
夏は食べながら汗をびっしょりかいても食べたいくらい。食べて汗をかいて、そして又仕事でカタログやサンプルの重い荷物を持って移動してまた汗をかく。これが夏の商用で滞日している時の日課のようなもの。

麺類を好む人は人情味が豊かな人と言われているそうです。
そんな意味では日本人やイタリア人は人情家が多いのでは???!!!

私はスペインで住んでいるので、麺類はレストランのメニューにも無い。麺類をレストランで食べたい時はイタリアンレストランに行くかファミリーレストラン的な所に行かないと食べられない。風格あるレストランでは麺類はメニューには絶対にない!!

イタリアサッカーリーグにある韓国の選手が移籍したのだが、彼はスパゲティーが嫌いということで彼のチームでの成績が悪いのでそのチームの会長は「スパゲティーを食べないからスタミナが無いのだ。だから期待している成績が出せないのだ」と全て彼の不振をスパゲティーの所為にしたとか。
by スペイン-バレンシアの日本国人 (2005-11-26 03:50) 

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